カテゴリー : 書籍/雑誌

「シグルイ」でもっとも真っ当な人間は伊良子清玄

 シグルイ、8巻・9巻をようやく読み終えた。(10巻も早く読まないと、と思いつつ、シグルイってなかなか本屋に置いてないんだよなぁ)

 8巻・9巻は、藤木vs伊良子の仇討ちの模様がこれでもか、と描かれており、9巻の中盤からは、牛股師範の大活躍が存分に描かれている。 四十五景・赤縄は、名エピソードだと思う。

 シグルイの魅力は、善玉・藤木源之助に対する悪玉・伊良子清玄、という構図でありながら、現代人の感覚で見ると、いちばん真っ当な行動原理というか、シンパシーを抱きやすいのが、実は伊良子清玄であるという価値観の逆転が起きているところにある。

 んー分かりにくいな。
 平たくいうと、主人公の藤木源之助が一番イカレており、そのライバルの伊良子清玄が実は常識人だったりするのだ。ヒロインも同様。虎眼に囲われていた、いくよりも、武家の子女である三重の方がイカレている。
(ここでいう「常識人」とは、品行方正ということではなくて、その行動原理が現代人の常識で理解し得る、ということだ)

 人間的にすごく嫌なヤツなんだけど心情が理解できる伊良子清玄と、真面目なんだけど現代人の常識では相容れない藤木源之助。伊良子清玄が若乃花で、藤木源之助が貴乃花、と喩えれば理解しやすいか。伊良子清玄が小悪党で、藤木源之助が宗教にどっぷりハマちゃった人?

 しかし舞台は江戸時代。
 少数のサディストが多数のマゾヒストの上に君臨するという、カルト教団さながらの武士社会においては、伊良子清玄の方が異端なのである。現代との価値観が180度異なっており、猿の惑星を髣髴とさせるパラレルワールドが展開されている。

 とにかくそんな全く別の価値観で生きるふたりが、武士という同じテーブルの上で戦うのである。これほどカオスな漫画は無い、というか普通、破綻するよね。でも脇を固めるサブキャラ達が実に見事なイカレっぷりを発揮して、想像を絶する世界観に説得力を与えている。

 シグルイは、勧善懲悪の物語ではなく、自分の価値観に沿わぬ者を徹底的に排除しようとするエゴイスト達の話なのだ。なかなかその魅力を伝えにくいシグルイなんですが、脳を揺さぶられるような体験をしたい人はぜひ。

#ちなみに、とことんグロいです。凄惨な描写やエピソードがてんこ盛りで、軽くトラウマになってしまうんじゃないのか、ってほど。

(書評)自分の小さな「箱」から脱出する方法



 論語では「義を見てせざるは勇なきなり」と解いています。目の前で困っている人がいるのに、手を差し伸べようとしないのは勇気が無い、という意味合いですが、「自分の小さな「箱」から脱出する方法」(大和書房刊)は、その「義を見てせざるは勇なきなり」を米国的なアプローチで解説している本です。

 一時期話題になった「鏡の法則 人生のどんな問題も解決する魔法のルール」も言わんとしている方向性は一緒なのですが、こちらはそれこそ先祖の霊が泣いていますよ的な、お涙頂戴なアプローチなわけです。理ではなく情に訴えると言うか。読者の9割が泣いたそうですが、僕は少数派みたいですね。読む価値が無いとまでは思わないけど、自分自身と真摯に向き合う覚悟がある人は、「自分の小さな「箱」から脱出する方法」をオススメします。

 さて「自分の小さな「箱」から脱出する方法」では、「箱」という表現で自己欺瞞を説いています。つまり見て見ぬ振りをしたときに、自分を正当化するために言い訳をしますが、それが自己欺瞞の第一歩です。自己を正当化すると、他者を貶め、現実を自分の都合の良いように捻じ曲げて解釈します。

 そして正当化した自分の行動を自分の性格として振舞っている内に、そうして箱をいくつも使い分け、箱の中からしか物事を見ないようになっていきます。箱の中にいる限り、他者は貶める対象としか捉えないので、夫婦、親子、同僚、上司、全ての人間関係がギクシャクする一方です。心に湧いた「義」や「仁」を無視して行動することが積もり積もって修復不可能な事態にまで発展してしまいます。

 Amazonでは冒頭の何ページかを読むことができるのですが、続きが気になった人はぜひお買い求めいただきたいと思います。こうした自己啓発系の書籍はほとんど読んではいない、というか(鏡の法則のようなうさんくさい本を結構多そうなので)避けていた分野なのですが、この本は理詰めと言うか、心ではなく頭で理解できたのでオススメです。

 いろんな自己啓発本やビジネス書がありますが、それらを読む前に、あるいはそういう本をたくさん読み過ぎて頭でっかちになってしまったときに、真っ先に読んでみてください。「オレばっかり損な役回りをやらされている」と人間関係に悩んでいる人はもちろん、「チームの生産性が上がらない」と頭を抱えている管理職の人もぜひ詠んでください。(今の上司なんて暗記するほど読んで欲しいところ)

 「箱」の外に出るための解決法も書かれていますが実践するのは難しそうです。しかしその道程は険しくても、キチンとその道筋は見えています。そこから逸れないように、一歩一歩歩いていけたらいいな、と思いました。

ダーウィンアワードよりも、ダーウィン賞を激しくオススメしたい


初めてダーウィン賞を知ったのが、2001年のこと。
それから6年、まさか映画化される日が来ようとは思いもしませんでした。 

「ダーウィン賞」は、お馬鹿な死に方をした人に贈られるという由緒正しい賞です。なんで「ダーウィン」の名前が付いているかといえば(ダーウィンってのは進化論を発表した人ね)その進化論の基本コンセプトは「環境によりよく適合したものが生き残り、ほかは排除される」ってことに由来する。

つまり、お馬鹿な死に方をしたお馬鹿な人達は、人類にお馬鹿な遺伝子を残さずに死んじゃってくれてありがとう、ってわけで賞が与えられるのだ。なんてブラックな賞でしょうか。

ま、そんなわけで、お馬鹿な死に様が色々と取り揃えられてます。
http://www.darwinawards.com/ (公式サイト:もちろん英語)

たとえば、
「ウォルター青年は、大の歯科医嫌い。しかし、虫歯の激痛に耐えられず、友人に、あごを殴るように頼みます。あごを殴られることにより、歯痛から逃れられると思ったのです。でも誤算がひとつ。友人のパンチは強烈で、しかも精度が良くありませんでした。ウォルターは、頭を強打され、頭蓋骨骨折により死んじゃいました」(注:僕の脚色が結構入ってます)

「ガリー青年は、ハロウィンの仮装で、木綿の包帯を巻いて指先までグルグル巻いて、完璧なミイラ男となった。んで、タバコを吸ったら、包帯に引火。重度のヤケドをおった。南無~」

あと「枕元の電話の音で起こされた男が、受話器を取ったんだけど、それはたまたま枕元に置いてあったピストル。寝ぼけている彼は、ピストルを耳元にあてて引き金を引いちゃった」とか、んなアホな!と思える話、満載です。

でも「英語なんで、意味がよく分からない」って人もいるでしょう。僕もそーです。ダーウィン賞をまとめた本が出版されていますので、購入してみてはいかがでしょうか。

2001年に発行された「ダーウィン賞!―究極におろかな人たちが人類を進化させる」(講談社、1,400円)は既に絶版になってますが、映画化に併せて、復刻されました。

それが「ダーウィン・アワード 死ぬかと思ったインターナショナル」(アスペクト、1,200円)です。発行されたばかりなので入手しやすいのですが、ダーウィン賞大好きの僕から言えば、先に発行されてた講談社の「ダーウィン賞」を強くオススメします。すでに「ダーウィン賞」を持っている人は、「ダーウィン・アワード」は買わなくて大丈夫です。ただの劣化コピーですから。

なんといっても、「ダーウィン賞」は349P、エピソード数169。「ダーウィン・アワード」は160P、エピソード数98。原著は同じなのにページ数半減、収録されているエピソードも2/3ってどうよ。前書きの部分を比べてみると一目瞭然ですが文章が大きく削られています。新しいエピソードが追加されているかなぁと期待して購入しましたが、期待外れでした。

Amazonではプレミア価格で売られていますが、もし近所のブックオフで「ダーウィン賞」が売られていたら買ってみてはいかがでしょうか。

Web制作関係者は、「Web担当者現場のノウハウ 9」を絶対読むべき


11月29日に発売となった「Web担当者現場のノウハウ 9」は、Webに携わる人、制作側・クライアント側問わず、読むべき。

特に冒頭の特集である「安く!早く!を実現するサイト制作の発注マニュアル」は必読です。

Webのことを知らないくせに素っ頓狂なオーダーを出して制作会社を振り回すクライアントや、逆にクライアントのニーズを全然汲んでくれない制作会社の話を嫌と言うほど聞いてきました。

相手を困らせようとする悪人はほとんどいなくて(たまにいるけど)、大抵はプロジェクトの進め方の意識の違いであったり、相互理解が単純に足りていなかったりとボタンのかけ違いに起因します。

そういったトラブルを未然に防ぐために制作会社はどのようにプロジェクトを進めていけばいいのか、クライアントはどういったことを制作会社に伝えるべきなのか、そういったTipsがふんだんに盛り込まれています。見積票の作成テクニックや、Web制作費用のおおまかな相場観も掲載され、このテの企画としては類を見ない充実ぶりです。

その後ろの、「海外SEOプロの秘蔵知識&隠しワザ」も目からウロコの話や、見過ごしがちな盲点がビシッ!と指摘されていて、ヒヤリとする人も多いのではないでしょうか。

見逃せない企画がてんこ盛りで、Web担編集部GJ!です。

ちなみに、僕も「あなたのサイトを成功に導く制作会社」というコーナーの執筆を担当してまして、今回は「ジークス」さんにお邪魔しました。サイトの実績はパッとしないのですが、実際に手がけている案件はビックネームがズラリ。実力派の制作会社だけど、それだけではない魅力を持っていました。

ユリイカのジョジョ特集に全力で落胆する。ゴゴゴゴゴゴ


ユリイカ2007年11月臨時増刊号 - 荒木飛呂彦 鋼鉄の魂は走りつづける」を読んだ。
いや、正確には最初の1/3くらいしか読んでいない。そこで心が折れてしまった。

 冒頭の荒木飛呂彦氏のインタビュー記事。荒木氏を囲んでの座談会といった方が正確かもしれないが、そこに出席している金田淳子氏があまりに酷い。腐女子を否定する気持ちはさらさらないが、誌面の後半を金田氏的腐女子妄想が占め、荒木氏に強引に同意させ悦に入っているのである。一ファンとしてそのシチュエーションは喜ばしいだろうと思うし、僕もそこにいたら舞い上がってしまい、とりとめもない話を滔々としたかもしれないが、僕が聞きたいのはあなたの妄想話ではない。

座談会のメインは誰なのか?この本の意図は何なのか?金子氏にファンの代弁者たる自覚はあったのか?
怒りが弾けて冗談抜きに涙が出てきた。

次の草森紳一氏の評論も酷い。なんだあれ。
関係無いスポーツ選手の話が所々に挿入されるのだが、それがジョジョ的世界観と全くリンクしてこない。ジョジョのことを書いてると、あーそうそう中田英がね、みたいな感じでエピソードを思い出したので入れてみましたという感じ。

正直この人、ジョジョをそんなに読んでないと思うのだがどうだろうか。スタンドの説明について怪しい部分があったし。そもそもキラークィーンのモチーフは狐じゃなくて、猫だ。

この最凶コンボで心を折られて、この後はほとんど読んでいない。ジョジョ立ちのところはやはり楽しく読んだけど。

怒りと悲しみ、これしか残らない。

ただの芸能人本だと思っていると火傷する、ホームレス中学生

 王様のブランチで、現在ベストセラー街道驀進中の「ホームレス中学生」の執筆者、麒麟の田村 裕がインタビューに答えていた。
 ちょっとうろ覚えなんだけど、「その印税をどうしますか?」との問いに、「世話になった方々に何らかの形で返していきたい」と答えていた。

  優等生的な答えだなぁ、と思ってそのときは軽く受け流していたんだけど、気になって「ホームレス中学生」を読んでみた。読む前は、ネタとしてお馴染みの公園で暮らしていたホームレス話が中心の芸能人本の類で、最後あたりに親兄弟のハートウォーミングな話なんか出てきたりして、まぁ笑ってちょっと泣けるレベルの本だと思ってた。

 (この後、ネタバレというか、内容について触れてますので未読の方はご注意ください)

  実際、最初の1/3くらいまでは、父親の借金に起因する一家離散の話や公園で寝泊りする「ホームレス」エピソードが綴られているが、これは面白エピソードの類で、たしかに想像を絶するシチュエーションには違いないが「ネタ」の域を脱していない。

 この本の真骨頂は、そもそも最愛の母親を亡くし、圧倒的な絶望感・虚無感を抱えたまま生きている少年の姿が、様々な面白エピソードの裏に潜んでいるところにある。なんといっても、田村少年の望みは、人の役に立って死ぬことである。母親の死、そして一家離散という大波が田村少年を人生の漂流者にしてしまったのだ。

 食事も満足に食べられないという肉体的な飢餓感だけではなく、母親という最愛の存在を無くしてしまった喪失感、このダブルの満たされぬ想いを抱いて、それでもまっすぐに生きている田村少年の姿はあまりに切ない。

 肉体的な飢餓は、周りの人たち(近所の人、友達の親、親戚)の尽力によって何とか回避することができ、また高校の担任との交流によって心にポッカリ空いた穴を塞ぐことができた。王様のブランチで、世話になった人に返したい、という言葉がきれいごとではなく、100%本心なんだろうと信じられる。もしかしたら途方の無い自責の念を抱えて今も生きているかもしれない。

 世知辛い世の中において、人間の「情」というものをもう一度信じたくなる本であることは間違いないのだが、この本を通して自分自身の闇と向き合うことになるかもしれない。それほどこの本のテーマは、重く深い。